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2010年7月 7日 (水)

「覚悟の人」

★★★☆☆。
 力作。この著者はこういう堅めの本とエンターテインメント系の本と2種類に分かれている。堅い方は、江戸時代の経済史・政治史が主題で、歴史経済小説というジャンルの第1人者だ。この本の主人公も、江戸末期のきっての経済幕僚といっていい小栗上野介忠順。
 のっけから、開国まもない日本でのドルと一分銀の交換比率の話で始まる。ややこしい話だけれど、説明がきちんとなされているので落ち着いて読めば理解できる。いろいろな幕末小説でひっかかっていたことが理解できてうれしい。咸臨丸で渡米するあたりの話は、つい最近読んだ「青雲遙かに」と重複するが、国務長官カスに談判して挫折するところなど、まあどこの人間も本音と建前は別なのに、あまりに短兵急に直球勝負しすぎという感じ。全編を読むと、この人はそういうまっすぐに生きた人なのだというのがよくわかる。
 物語は一転して対馬に不法占拠するロシアの話になり、多分に脚色があるのだろうけれど、やりとりがなかなかおかしい。若い小栗は正直すぎていいようにあしらわれているし。後半は、勤皇倒幕から大政奉還への何度も何度もいろいろなところで読んだ幕末史。ただ、金の遣り繰りの話が中心になっているのが他の維新史との大きな違いで、ここでは経済に明るい小栗の面目躍如だ。
 生粋の幕臣として時代に殉じたために、最後は維新のどさくさに捕えられて斬首されてしまうが、薩長の破落戸同然の幕末の無頼漢がそろいもそろって明治の元勲に居座るにいたったことを思うと、そのぶれない生き方はいっそ小気味よい。
 刑死した慶応4(1868年)で享年四十二とあってびっくり。そんなに若かったのか。物語のはじめが安政6(1859)年だから、この重厚な伝記はたかだか10年ほどのことなのだ。まさに歴史が動いたその奔流の中を流星のように生き切った。覚悟の人、まことにふさわしいタイトルだ。

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