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2010年12月31日 (金)

「ゴールデンスランバー」

★★★★★。
 ゴールデンスランバーといったらアビイロードだよな、と思って読んだら、まさにその曲からとったタイトルだったんだ。ばらばらになってしまったメンバーに昔に戻ろうよ、と呼びかけるかのように、「四畳半で一人、肩をすぼめ、多重録音の機材を前にヘッドフォンをし、必死に八曲を繋いでいる、ポール・マッカートニーの姿...」。それが真実かどうかはともかく、この物語の根底に流れているのは、青柳、樋口、森田、カズをかつて学生時代に繋いでいた絆が、お互いにバラバラに生きている現在でも、どんなに細くなろうとも切れずに確かにつながっている、あたかもアビイロードの8曲のように、という事実だろう。まさに、これは青春小説なのだと思う。
 そう、この救いようのない悲劇の最大のキーワードは「信頼」。世紀の大事件の犯人にでっち上げられて、絶望的な逃避行に追い立てられてゆく青柳のとる行動規範すらこの「信頼」だ。なんという能天気な。だが、3人の友人たちはもちろんのこと、脇役であっても、岩崎、轟、保土ヶ谷、将門、凛香、そしてキルオですら信頼に値する人間として描かれているように、この非常識で非人間的な暗黒劇の中の最後の砦がこの「信頼」なのだ。あたかもパンドラの箱の底に輝いていた希望のように。
 そしてもう一つ、この小説が素晴らしいのは、一級のサスペンスでもあるところだろう。読んでいて懐かしさがこみあげてくる。このじりじりと時間に追われる緊迫した焦燥感、ああ、まさにウィリアム・アイリッシュそのものじゃないか。ぼくは、いてもたってもいられない追いつめられたサスペンス小説を書かせたら右に出るものがないウィリアム・アイリッシュ(=コーネル・ウールリッチ)が大好きで、ローレンス・ブロックが補綴した遺作「夜の闇の中へ」を含め日本で訳出されている小説すべてを読んでいる。仙台というローカルな街中でのあまりに日本的な逃避行ではあるけれど、このスピードとスリルあふれるサスペンス性はアイリッシュに劣らない。もう読めないと思っていたアイリッシュにこんなところで出会えるなんて。
 そして結末。この絶体絶命の物語をどうやって読み手が納得するような収束へもって行くのだろうとドキドキ心配していたら、ああこうきたか。どうやってもハッピーエンドにはなりそうもない展開で、なんとか首の皮一枚つなげたか。後日譚の「キャバクラ嬢」、「痴漢は死ね」、そしてきわめつけの「たいへんよくできました」。できすぎで甘ったるくて読んでいる方が恥ずかしくなるけど、ぼくは好きだこういうの。花まるだね花まるをあげよう(笑)。

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