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2011年2月22日 (火)

「オーデュボンの祈り」

★★★★★。
 あの伊坂幸太郎の処女作ということなので早いうちに読んでおきたいものだと手に取った。一気に読んだ。文句なしの傑作。まず何よりタイトルがすばらしい。オーデュボンとは何だろう?と調べてみる。アメリカの画家・鳥類研究家で、細密な写実画集「アメリカの鳥類」を遺した。いったいそのオーデュボンは何を祈ったのか。それがこのおとぎ話の大きなカギになっている。
 第五回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞したことにはまったく驚かない。驚くのはこれがミステリーとして応募されたということだ。いわゆる既存のミステリーの概念からはまったくはずれている。これはミステリーなのか?と正面切ってきかれたら自信ないが、事件が起こり、謎が解き明かされるからたしかにミステリーではあるのだろう。それとともに、寓話であり社会風刺であり文明批評であり歴史小説であり青春小説でさえある。
 仙台郊外に浮かぶ荻島という孤島での物語。解説の冒頭にシュールということばが出てくるが、大江健三郎でもなく安部公房でもないけれど、もし座標をおくとしたらそういう流れの上にあるだろう。カカシがしゃべる。だけでなく未来を預言する。当然だ。あの禄二郎の念のこもったカカシがしゃべらなかったらその方が不思議だ。それだけで十分シンボリックだけれど、もちろんそれだけに留まらない。荻島の住人のすべてが浮世離れして現実感が希薄だ。たとえば「桜」。警察も裁判所もいらない。だけど妙に安心感がありはしないか。悪い奴が逃げ延びることなくまっとうに処罰される。理由なく理不尽に処罰されることはない。現実世界の「城山」はその対極としておかれている。彼の末路に喝采したのはぼくだけではないだろう。そして、読み終わった誰しもが自分も丘の上の音楽会に参加したいと強く思ったに違いない。力強い未来すら予感させる。すばらしい幕切れだ。
 これが処女作とは恐るべき才能としかいいようがない。これの前には「重力ピエロ」も「ゴールデンスランバー」も色褪せるだろう。もちろんミステリーなんて狭い定義をはずれている、文学としても一級品だと思う。

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