「そして名探偵は生まれた」
★★★★☆。
そっかこれって長篇じゃなかったのか、と後で気がつく愚かさ。短篇集が悪いとは言わないけれど、本格ミステリはやはり長編で勝負してほしいよなと思う。もちろん誤解していたのはぼくなので、この本に限っては著者の責任ではない。
だけど、歌野晶午というだけで損するよなあと思う。なんといってもあの名作「葉桜の季節に君を想うということ」の衝撃が大き過ぎる。他の作品も水準作なんだけど、どうしても高いレベルを期待してしまう。ぼくは「葉桜~」よりさきに「長い家の殺人」を読んでいて、そのトリックに好感をもったのが最初の出会いだったので、このくらいの作品集でもまずまず楽しめたけど。
そう、ここに収められている4編の短編のうちの表題作が、あの「長い家~」を思い出させた。こういうトリックは賛否両論あるだろうけれどぼくは嫌いではない。もっとも短篇なので底が浅いのは仕方ないけれど。全4作の中で最もよい出来なのは「館という名の楽園で」だろう。館ものの魅力が満載。こういうのは大好きだ。トリックはなんとなく気がつくけれど、雰囲気描写といい効果的な昔話の挿入といい、ゾクゾクする。短篇なのが惜しいくらい。最後の種明かしも悲しい結末も気が効いている。Good Old Days、追憶の青春小説でもあるんだよな。