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2011年3月 5日 (土)

「さよなら妖精」

★★★★☆。
 なるほどね。3作目にしてこれが米澤穂信かとやっとわかった感じ。「ボトルネック」は失敗作だと今でも思うけど、やはりああいう感性が持ち味なんだね。その持ち味が十分出ている本作はよほどいい。人気がある理由がよくわかる。
 何のことはない高校生の日常生活。そこに突然迷い込んだ異国の少女。たった2ヶ月の間にあったあれこれの回想がつづられてゆく。筆者である守屋に太刀洗、白河、文原といった友人たち、それにユーゴスラヴィアからきたマーヤ。ほとんど彼らだけのやりとりが中心だ。それぞれの人物造型はしっかりしていて、目の前に見えるよう。マーヤの舌足らずな日本語の描写のうまさはもちろんのこと、太刀洗万智の魅力などもきわだっている。その中にちょっとした日常の謎解きがいくつか散りばめられてはいるが、蓋然性が強過ぎるしそもそもそれはアクセントに過ぎず本題ではないだろう。
 マーヤが帰国してからの「謎解き」というのが帯にも裏表紙にも書かれていて、さて何だろうと期待する。なんといってもこれはミステリなんだから。ひょっとしてあっと驚く叙述トリックが仕掛けられているのでは、とか。そんな思わせぶりな宣伝文句を何で書くのだろうか。謎解きはあるにはあるけれどいわゆるミステリ的な謎解きではないので、そういう過剰な期待をさせるのはかえって逆効果だ。本書の魅力はそんなところにあるのではない。「出会いと祈りの物語」なんてのもよけいなお世話だろう。そんな売らんかなの過度の演出が先入観となって、せっかくの魅力を薄めてしまっている。たしかにそういう惹句で手に取ることになったのだからマーケティングとしては成功してるのだろうけど(笑)。
 一瞬の夢のような青春のひとコマの追想の物語。それでいいではないか。幕切れは悲しいけれど、けっして読後感は悪くない。起伏に乏しいきらいはあるものの、ああちょっと素敵な物語を読めたなと思える。

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