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2011年6月16日 (木)

「寒椿ゆれる」

★★★★★。
 たった一つの大切な思い出のために、男は椿の花を植えた。最後の「寒椿」の終末部分の半ページほどの部分。愛とか恋とかのことばを一切使わなくとも、人を愛することの哀しさが切々と伝わってきて泣ける。いや実際ぼくは泣いた。
 この感動。心から人を愛したことのある人には説明するまでもないだろうけど、そういう経験のない人には百万言を費やしたとて理解してもらえないだろう。しかしこの作家のなんという力量だろうか。文才もともかくそういう心を作者がもっているからこそ書けるのだろう。
 シリーズ4作目。前作を読んだときはどうかなと危惧したけれど、マンネリなどという言葉は杞憂だとわかった。今回は「猪鍋」、「清姫」、「寒椿」と短篇が3題。主人公玉島千蔭と周りの脇役は相変わらず達者で息のあったところをみせてくれる。そこへきて、千蔭の見合いの相手として登場した前田家の息女おろく。この人物造型がまったく素晴らしい。42回見合いして29回断られ、13回断ったという曰くつきの娘で、たしかに変わり者ではあるのだが、なんと魅力的なのだろう。女性的魅力などという一般的な物差しなど、生身の個人を計るのに何の意味もないのがよくわかる。こういうところにも著者の人を見る目の確かさがあらわれる。
 そのおろく。「わたくしは自分が椿の花のように思われます」。椿が実際武家に嫌われているかどうかは諸説あるようだけれど、この3連作をつなぐ重要なモチーフとしてはうまいと思う。あの堅物の千蔭の相方にはなるほどぴったりで、こういう展開になったかと期待して読んでいくと...、最後の「寒椿」にきて、冒頭部分につながる。ああなるほどねとちょっと安心。いや千蔭の面目躍如というべきか。まったく男が惚れるねこういうの。
 この本、今年一番の収穫だ。そういえば昨年の今頃に同じ著者の「サクリファイス」を激賞するエントリを書いていた。こうなると近藤史恵が2年連続でjunk大賞(笑)をかっさらうという偉業も夢ではない。ぜひ読んで感想を聞かせてほしいと思う。
 「寒椿」のみならず、真中の「清姫」にもひときわ胸を打つ千蔭の言葉が出てくるし(さがしてください)、最初の「猪鍋」にはいつもぼくが食品機能の授業でしゃべっている長野独特の食材の話が重要な鍵として登場してびっくり。なんか因縁を感じてしまう。
 今日のランニング。8.4 km/49 min。今月の累計距離 153.7 km。

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