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2011年9月15日 (木)

「双頭の悪魔」

★★★★★。
 有栖川有栖の江神二郎シリーズ第3作。前回第1作「月光ゲーム」を読んで、第2作「孤島パズル」は以前読んだので今回はこれ。シリーズものは回を追うごとに質が低下して行くことが多いものだが、これはこれは。正直感心した。これがあの有栖川有栖なのか。孤島パズルはよく憶えていないが、習作的とけなした月光ゲームなんかよりは数段すばらしい。これだけのボリュームの本格作品では傑作の部類に入ると思う。見なおした。
 四国の山奥の木更村の芸術家コミュニティにはいりこんでもどってこない有馬麻里亜を英都大ミステリ研の江神、有栖らが訪ねて行く。折からの大雨で木更村へ通じる唯一の橋が崩落。それと前後して橋向こうと手前の夏森村とでそれぞれ不可解な殺人事件が起こる。橋向こうではたまたま芸術家コミュニティに潜入成功した江神と麻里亜、こちらでは有栖ら3人のミステリ研メンバーがそれぞれ推理を繰り広げる。物語は橋向こうマリアの視点とこちらアリスの視点でのようすが交互につづられてゆく。そして最後に一見つながりのなさそうな二つの事件の意外な真相が明らかになる。まあそういうストーリー。
 本格ミステリとしては、犯人の意外性と二つの犯罪がなぜ同時に起こらねばならなかったかの必然性など、うまくできていると思う。それだけでも十分及第点だ。そしてそれ以上に本作がすばらしいのは、文章のうまさと随所に心に残る名句がちりばめられていることだ。有栖川有栖ってこんなに文章家だったっけと驚かされるくらい。「運命なんて犬と同じだ。逃げる者に襲いかかってくる。この地上に楽園なんてない。自然は真空を嫌うけれど、神は楽園が憎いのだ。」、などなどうんうんと身に沁みてうなずかされる言葉があちこちに出てくる。それがこの作品を単なるミステリから人間的文学へと昇華させている。読んだ後で謎解きの爽快感以上の満ち足りた感慨、ああいい本を読んだ、という気にさせる。

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