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2011年10月19日 (水)

「猫を抱いて象と泳ぐ」

★★★★☆。
 なんとシュールな表題。だけどこれが具象なのだから驚く。主人公はチェスの名人で盤上の詩人アリョーヒンの再来といわれた盤下の詩人リトル・アリョーヒン。彼は盤の下へもぐって猫を抱きながら考えるという独特のスタイルでチェスの対局をした。そして彼の好きな駒であるビショップは昔は象の意味をもっていて盤上の海を縦横に泳ぐ、一方でデパートの屋上で飼われていたインディラという象とその前の水たまりが幼少時の原体験として刻み込まれている。「猫を抱いて象と泳ぐ」、これすなわち彼の人生そのものであったチェス対局のありかたというわけだ。
 不思議な小説だ。リトル・アリョーヒンが廃車バスで寝起きする巨漢のマスターからチェスの手ほどきを受け、長じてからはからくり人形の中にはいってチェスを指すという地下生活をへて、チェス好きの退役者の暮らす山上で自動チェス人形を務め、突発的な事故による短い一生を終える、というそれだけ。静かに静かに物語は進んでゆく。おもしろいことに主人公のリトル・アリョーヒンをはじめ、お祖母さん、弟などの彼の家族、マスター、地下生活の大事な仲間であったミイラ、山上の看護婦長など登場人物がすべて個人名が出てこない。なので物語では重要な位置を占めるにもかかわらずなんとなく存在感が希薄で、物語全体が妙に現実感が薄い。もちろんそう意図されているのだろう。
 「慌てるな、坊や」。だけど名前はなくともマスターの温かみは十分伝わってくる。そして、ミイラと名づけられた同僚の少女との淡い交流。離れ離れになってから始まった気の長い郵便チェス対局。最後の投了の手紙を持ってリトル・アリョーヒンに再会すべくロープウェイで山に上ってきた彼女がすれ違ったゴンドラに乗っていたのは...。悲しい幕切れだ。
 今日のランニング。6.6 km/46 min。今月の累計距離 123.4 km。

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