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2011年11月 2日 (水)

「おまえさん」

★★★★☆。
 「おまえさん――と、男に呼びかけた」。最後の最後に出てくる一見このなにげないセリフ。いや、ここまで読んできた読者には、ああそうなのかいと粛然とせざるを得ない場面。それが本書のタイトルだ。重い。
 「ぼんくら」、「日暮らし」に続くシリーズ最新作。たしかに平四郎、お徳、弓之助などなど登場人物は馴染み深い。馴染み深いけれど、もう前作までの行く立てはほとんど忘れているので、要所要所で復習しながら読むことになる。もっとも達者な作者なので、前作を読んでいなくても十分人間関係は理解できるし不自由はないだろうけれど。主人公である定町廻り同心井筒平四郎は、読んでいて大方の男が羨ましく思うであろう気楽な身分で、周りを固める脇役たちも気のいい善人ばかり。そのやりとりだけでも十分楽しめるのだが、それだけではもちろんこんな長編作品にはならないので、事件が起こる。その事件と結末が残念ながら宮部みゆきにしては今ひとつ。特に、容疑者?の逃亡から最終部分がなんだかなあと思ってしまう。なんとも後味が良くないというか、キレを欠いているのでは。
 構成的におもしろいのが、「おまえさん」という長篇の後半部が、4つの独立した短篇にわかれていて、「残り柿」、「転び神」、「磯の鮑」が3人の登場人物の視点での並行した物語りになっており、最後の「犬おどし」が全体の解決編になっているというつくりだ。特に「残り柿」と「磯の鮑」はしみじみと人の生き方を考えさせられる好編だと思う。それと特に全体の後半部分が誤解を恐れずにいえば宮部ワールドらしくないと思った。ぼくは京極夏彦の京極堂ものを読んでいるのではと錯覚させられた。それくらい文体とか言い回しが京極堂っぽいのだ。同じ事務所だからって語り口が似てくるわけでもなかろう。もちろん宮部みゆきほど独自世界を確立している作家が今さら他人に似せる必要もなかろうから、ぼくの深読みというか誤認識に過ぎないのかもしれないけれど。
 それはともかく、「小暮写眞館」的な作品が読みたいんですけどよろしくお願いしますね(笑)。

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