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2021年9月25日 (土)

透明駒とは何か

 最近考案された変わり種詰将棋のルールに透明駒というものがある。最近「透明駒入門」という入門書も発刊された。透明駒というのは、駒が存在しているのだが、どの種類の駒がどのマス目にあるか見えなくなっているものだ。そういう透明駒が攻方に何枚、受方に何枚あると条件をつけて詰将棋を解く。見えない駒があるのにどうやって詰将棋が成立するのかと不思議だろう。「透明駒」という名称は公正で美しいのだが、それを理解するには「可能性駒」あるいは「主張駒」とでもいう方がわかりやすいかもしれない。
 それはともかく、習うより慣れろ、実際にやってみよう。

 

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(A)詰将棋5手(攻方に1枚透明駒あり)
  「透明駒入門」p.15より(初出は若島正作(Twitter 2013))

 

 上の図面(A)、盤面全体のどこか(あるいは駒台)に攻方の透明駒が1枚あるのだが、何の駒がどこにあるかは透明なのでわからない。初手23桂と打ってみる。同龍ととられてどうにもならなそうだが、攻方には透明駒があるのでそれがたとえば35桂(あるいは15桂)だという可能性がある。すると同桂不成と取り返すことができて詰んでしまう。協力詰じゃあるまいしそんなに都合よく駒を置いていいのかと思うかもしれないが、透明駒は「可能性駒」なので、そこにそれがあるという可能性を排除できない限り存在しうると仮定してもよいのだ。

 

210925b
(B)どこかに攻方の透明駒Xがある

 

 つまり23桂の王手を受方は同龍と取れない(B)。ならこれで詰んでしまったのかというとそうではない。なんと12玉と逃げる手があるのだ。龍の効きがあるじゃないかと思うかもしれないが、盤面のどこかに攻方の透明駒があるのだから、それがたとえば22歩(あるいは香)であるという可能性がある。だから12玉という逃げ方が成立するという考え方だ。さっきは攻方が35桂かもしれないと主張した。こんどは受方が22歩かもしれないと主張した。矛盾するではないか。でも可能性だからそれでいいのだ。どっちの可能性もある。つまりその場面で可能性が排除できない限り自分の都合のいいように主張していい。「主張駒」というわけだ。

 

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(C)Xは攻方の透明駒

 

 さて23桂に12玉と逃げられたらどうするか(C)。ここで11桂成同玉と成り捨てるのが驚きの手だ。桂馬1枚損してもとの局面にもどっただけ。ふつうの詰将棋ではあり得ない手だ。なんでこんなことをするのかというと、ここまでの4手で22歩(香)が存在するという可能性について攻方受方双方の合意が成立した、すなわち透明駒は22歩(あるいは香)であると確定することができたのだ(角金銀だと初形で王手なので不可)。さっき受方が22歩があるという可能性を主張して12玉と逃げたのだから、11玉ともどった時点で22歩なんてありませんよとは主張できなくなったということになる。

 

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(D)Xは攻方の透明駒

 

 盤面は初期局面と同じで持駒の桂がなくなっただけだ(D)。しかし大きな違いは、見えないけれど22歩(香)がある。すなわち21歩(香)成と指せばこんどこそ詰みだ。ただし表記上は22の駒が歩か香か限定できていないので、あくまで透明駒「X」としか書けないので最終手は「X」となる(透明駒を動かしたという意味)。22にあるXが歩でも香でも動かす位置は21しかありえず、かつ不成という可能性はありえないので、「X」と書けばことたりるのだ。ということで正解手順は、23桂、12玉、11桂成、同玉、X の5手詰となる。

 

210925a
(A)初期局面(どこかに攻方の透明駒Xがある)

 

 説明はこれではまだ不十分だろう。たとえば透明駒は「可能性駒」あるいは「主張駒」なのだから、最初から22歩だと仮定して初手21歩成(表記上はX)の1手詰ではないか(A)。そういう攻方の主張は成立するだろうか。それはだめなのだ。22歩というのはあくまで可能性の一つでしかなく、Xという表記は単に何らかの駒で王手をかけたという意味しかない。受方があんたそれは35桂を23桂不成と跳ねたのでしょうといわれると否定できない(同龍と取られて詰まない)。先の正解手順で最終手Xが成立したのは、その前段階で透明駒の可能性が22歩(あるいは香)に絞り込まれていたからだ。そのために桂のタダ捨てが必要だったわけだ。

 

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(E)Xは攻方の透明駒

 

 もうひとつ、初手の23桂を同龍と取る変化で攻方は透明駒が35桂である可能性を主張して同桂不成(表記上は23X)とした(E)。これについて、初期局面での22歩の否定と同じに受方が35桂なんて可能性は認めませんよといったらダメじゃないのか。実はこの場合はこれでいいのだ。なぜかというと、この23Xという手は龍を取る手だ。すなわちこの手によって盤上から受方の龍が消える。透明駒の約束として、透明駒が盤上の駒を取る場合はその位置が確定するというものがある(この場合表記に位置を明示する)。どこにあるかわからない駒なのだが、相手の駒を取ったということはそこにある、言い換えれば元はそこに動ける位置にあったということが証明されるからだ。だから、この場合23龍が取られたということで、透明駒が23の位置に移動したということが確定する(すなわち表記は23X)。それがなんで桂かというと、詰将棋では攻方のすべての手は王手でなくてはならないからだ。23龍を取る手でかつ王手になるのは桂しかありえない。

 

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(F)どこかに攻方の透明駒Xがある

 

 この「駒を取ることによってその位置が確定する」というのはなかなか大きなポイントだ。つまり、初形で14龍が23龍だったとすると23Xの1手詰になる(F, 持駒は不要)。23Xという表記は23の駒を透明駒で取った王手という意味だからだ。

 

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(G)どこかに攻方の透明駒Xがある

 

 それなら初形から14龍がなくなったらどうか(G)。こんどは23に駒がないので23Xという手は指せない(駒取りにならないので場所の限定ができない)。指すなら単にXとするしかないが、それでは何らかの王手をかけたという意味にしかならない。その中には23桂不成も含まれるがそれは可能性の一つでしかなく、受方がいやいや今あんたが指したのは22角不成でしょといわれたら否定できないのだ(12玉と逃げて詰まない)。
 それでは局面(G)で詰めるにはどうすればいいだろう。正解は「13X」の1手詰だ。透明駒で13の歩を取る手は駒取りなので位置を明示できる。13の歩をとってかつ王手がかかる手は、13香不成、13飛不成、13飛成、13龍の4通りあるが、いずれも詰みだ。繰り返しになるが、攻方の手は必ず王手のはずなのでこれ以外の可能性はない。

 

210925h
(H)Xは攻方の透明駒

 

 もうひとつ駄目押しをしておこう。元にもどって23桂12玉11桂成同玉の局面で持駒にもう1枚桂があったとする(H)。それをまた23桂と打ったらどうか。12玉と逃げれば同じことの繰り返しだが、この場面では同龍と取る手が成立する。こんどは23Xと取り返すことができないからだ。なぜなら透明駒はすでに22歩(あるいは香)であると限定されているから、もはや35桂である可能性はない。すなわち一連の手順の中で透明駒の可能性に矛盾があってはいけない。透明駒は万能駒ではなく、あくまで特定の位置の特定の駒だからだ。最初の変化で透明駒が35桂であると主張できたのは、22歩(香)という可能性とは別手順中の話だったからなのだ。

 どうだろうか。納得できただろうか。考え出すとあれはどうかこれはどうかとまだまだ疑問が出てくるかもしれない。ぼくもいまだによくわからない部分もある(ここまでの説明にも間違いがあるかもしれないので気づいた方はご指摘ください)。

 最初に出てきた「透明駒入門」は時宜を得た格好の入門書というわけで、興味をもった方に広くお薦めしたいが、いくつか気になった点もある。このエントリは本来ここで本書の感想を書こうと思って書き始めたのだが、透明駒の説明だけで長くなってしまったので、感想はまた別エントリを立てることにしよう。

 

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