物語の終焉
ずっと読み続けてきたヘニング・マンケルのクルト・ヴァランダー刑事シリーズ。長編の10作目にして最終巻「苦悩する男」を読み終わった。
スウェーデン南部の小さな町イースタの警察署にずっと勤務して、同僚たちと協力はするものの基本的には一匹狼で独自の捜査を展開し、数々の事件を独力で解決してきた。優秀な捜査官でありながら、私生活では頑固な父親や別れた元妻、気ままな娘と距離をとりつつ、いつも孤独であり、常に自問自答しながら、弱音を吐き、不器用でときに失敗をやらかしては深く自省に陥る。読み手はつい彼のそんな人間的な弱さに自己投影し、感情移入しながら読み進む。その繰り返しもこの最終編で終わってしまった。もう次はない。まだ読んでいない短編集と最後の中編が残っているが。それで正真正銘お終いだ。
シャーロック・ホームズがライヘンバッハの滝から生還したように、著者が存命であればひょっとしてカムバックは無理でも、書かれざる事件の公開みたいな新作が出る可能性もないではないが、著者が最終編出版からほどなく逝去してしまったのではそれもかなわない。というか、それを見越してこの名刑事シリーズに幕を引いたのかもしれない。
そんな最終巻のラストシーンはたとえようもなく感動的で哀しい。せっかく目の中に入れても痛くない最愛の初孫クラーラが生まれたばかりだというのに。いや、もう十分働いたよ、あとはゆっくり休んでください、というべきなのか。
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