安南詰の不思議
詰将棋パラダイス、11月号はまだ来ないので10月号の話題の続きを。変則ルールを扱うフェアリーランド、担当の片岩さんが毎月例題を取り上げて解説してくれている。これがぼくのようなフェアリー初心者にはとても役に立つ。
今月の例題は大野孝氏作安南詰7手(図A)。安南ルールというのは「ある駒Aの直後(下)のマスに味方の駒Bがあるときは、AはBの動きになる」というもの。その他は普通将棋と同じルールで詰将棋を解く。たとえば図Aで攻方が33歩と打つと、下のマスには角があるので歩が角の動きになり、王手がかかる。一方受方は13歩が下のマスに飛があって飛の動きになっているので、これを同歩と取ることができる、という寸法だ。正解手順は、14飛同玉25角上15玉14金同歩33歩までの7手。最終局面が図B。
図Bはいわゆる透かし詰(線駒による遠方からの王手)の局面で、たとえば24歩と合駒することは可能だが、24同歩成と取れば(図C)、できたと金がやはり角の上に乗っているので王手だから、この合駒は無効すなわち無駄合とみなされる(玉は歩の動きになっているので同玉とは取れない)。なので図Bの局面で詰みだ。
ところで、図Bは33歩と打った局面だ。これで詰みなら打歩詰ではないか。なら33歩は禁手で打つことができないのでは。片岩さんの解説では、この場合は24合駒を打つ余地があるので厳密には図Bは詰みではなく、打歩詰とはならないという。無駄合というのは詰将棋の手順を一意に確定するための方便であって、指将棋には無駄合という概念はない、だから逃れ手順が可能である以上まだ詰んではいない、すなわち打歩詰ではない。なるほどそう考えるのか。ずいぶん都合のよい解釈のようにも思えるが、たしかにルール上はそうだ。
それなら、受方に持駒がなかったらどうだろう(図D)。これだと24に合駒を打つことができないので逃れ手順は存在しない、すなわち詰みだ。ということはここでの33歩打は打歩詰の手ということになり指すことは不可だ。つまり、受方の持駒の有無で状況が変わるのだ。指将棋では合駒があれば詰まないのに、なくて詰んでしまうことが間々ある。それがこの場合は、合駒があると詰んで、合駒がないと詰まない、という逆の関係になっている。おもしろいものだ。
これだけでもおもしろいが、この話には続きがある。図Eは図Bの局面を一路下部にずらしたもの、すなわち34歩打で詰ませた局面だ。ここで25歩合と合駒をしたらどうだろう(図F)。
25同歩と取るとその歩が角の動きになるので、この合駒は無駄合だから詰みだ...、ではない。この場合は、25同歩と取る手は二歩禁になって指せないのだ。すなわち25歩合は有効合で逃れということになる。図Bでは24同歩成と成って取れたので二歩にならなかったわけだ。なるほどー、おもしろいな。
いやいや感心するのはまだ早い。この話にはさらに続きがあって、図Gだ。これは図Eに攻方19歩を追加した図だ。図Eでは25歩合が有効合で逃れだったが、図Gではそんなことをせずとも、攻方は16歩と玉を取ることができない。19歩があるために16歩が二歩禁になるからだ。王手どころか玉を取る手も禁手の場合は不可なのだ。ということは図Gでの34歩打という手は王手になっていない(次に玉を取れない)ので、そもそも詰将棋の手としては指せないことになる。
いや~、安南詰は奥が深い、勉強になりました。
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