忠実な
忠実な、といえば忠実な羊飼い。あの皆川達夫さんの「バロック音楽の楽しみ」のテーマ曲が脳内を流れる。だけど羊飼いが忠実とは誰に対して忠実なのだろう。忠実ということばは、召使とか家臣とかが、上役に対して誠実無比であるというイメージがある。人には限らず犬でもそうか、忠犬ハチ公なんてのもまさにそうだ。忠とは真心であり、忠誠、忠心などを想起するからだろう。
英語でいうとfaithful。そう思っていたら、今読んでいるMolecular Biology of the Cellの中に、ある形質が遺伝的に次世代細胞に引き継がれるというところで、何回か修飾語にfaithfullyとでてきて、ん?と思った。クロマチンのヒストン修飾がDNA複製後の娘細胞にもそのまま引き継がれるみたいなところだ。正確に間違いなく同じ形でという意味なのだろうが、それをfaithfullyと表するのはちょっと違和感がある。忠実なということばに人間的な意味を感じてしまうからだ。無生物がいったい誰に忠実なのか。
つまりfaithful(ly)は、即物的に正確無比にという意味で、人間関係に限らず広く一般的な語なのだろう。そういわれれば、日本語の忠実なも、原典に忠実な翻訳とか、楽譜の指示に忠実な演奏などと、無生物相手に用いられることもあることに今さらながら気づいた。人間臭い意味合いというのはぼくの誤った思い込みだったのか。これまで論文を書くときなど、何かに対して細部まで正確にという場合にfaithfullyの語が思い浮かんでも、いやこれはニュアンスが違うなと却下していた。あれは別におかしくはなかったのかもしれない。分子生物学の勉強をしているつもりなのに、意外な気づきがあって改めて目を見開かされることも多い。いくつになっても人生は勉強だな。
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